時々思う。
君はあの人に似てる、と・・・。
常に、ではなく
なぜ、時々なのかって?
・・・それは、性格が全くと言っていいほど違うから。
しかし、過ごしてきた時間が長かったからか、似てる部分も沢山ある。
だから僕は。
―――時々だけれど、そう思うんだ。
「ルー!いたら返事して!!!」
人ごみの中、大声で叫びながら走る僕を、目の前を行く人達が、迷惑そうな顔でチラチラと見ていた。
はああ・・・またか。
いったい、どこ行ったんだよ?
目が合う人という人に、小さく頭を下げながら、思わずため息を吐いてしまった。
・・・こういう所まで、あの人に似なくってもいいのに。
いやいや、あの人はまだマシな方かもしれない。
と言っても、迷った彼女をいつも見つけてくるのは、僕ではなく赤毛のあの人であったから、そう思えるのだろうけど。
それに、彼女は『方向音痴』という事に自覚してくれてるからで。
だから余計に、まだマシだなんて思ってしまうのかもしれない。
が、ルーの場合は違う。
どちらかというと、興味あるものに目が向いちゃって、思うがままにどんどん突っ走り、いつの間にか僕と逸れる・・・というのが日常茶飯事だからだ。
そればかりか、自分が迷子になっているという事に気付いてすらいない。
彼女の姿を見つけて、後ろから声をかけると、いつだって
「んもー!今までどこ行ってたの?」
なんだもんなぁ・・・・・・
だからか、今回ばかりはもういいかな?なんて思い始めた。
きっと今頃、可愛い雑貨や洋服を見つけては、一人でキャーキャーやっているだろうし。
そういう時に声を掛けたりなんかすると、邪魔しないでとかえって怒られるし。
まあ、ここエベリンは、昔から何度も来ている街でもあるし?
冒険者のうちじゃそこそこ名の通っているルーの事だ。
何かあったとしても、きっと大丈夫だろう。
そんな想いで、僕は今夜泊る予定の宿屋へ向かったんだ。
・・・・・それから何時間経ったのだろう。
宿屋のベッドに身を投げてそのまま目を閉じ、次に目を開けると、辺りは薄暗い闇に包まれていた。
「んー・・・ルー・・・?」
半分寝ぼけながら、なんとなく呟いてみる。
けれど、それに返事してくれる者はなく・・・
「・・・まさか・・・」
言いながら我に返り、勢いよく立ちあがる。
そのまま僕は蹴破るようにドアを開けて、宿屋の受付まで走ったのだが。
「その様な方は、まだいらっしゃってませんが・・・」
受付の女の子が、困ったように首をかしげるのを見て、僕は思わず項垂れてしまう事になってしまった。
―――なにやってんだよ・・・!?
もう真っ暗だぞ!!?
そんな思いで、僕は宿屋の外へ駈け出した。
「ルーーー!どこーーー!?」
昼間のように、叫ぶ僕を迷惑そうに振り返る人は相変わらずいたけれど、こうなったらそんなのもうお構いなしだ。
「いたら返事して!」
走っても、叫んでも、その姿が見えもしなければ、声すらもしない。
あの時、ちゃんと探せば良かったんだ。
なんで僕は、ルーを必死になって探さなかったのか。
本当は・・・
ルーは・・・
―――人一倍、一人ぼっちになるのが嫌なはずなのに!
「ルーーー!」
中心街を抜け、街裏の林を、相変わらずバカでかい声を出しながら走っている時だった。
「・・・シロのばかぁぁぁぁーーー!」
「うわ!?」
聞きなれた声がしたのと同時に、目の前に何かが飛んできた。
突然の事に驚きつつも、それをキャッチする。
ほんのりと香ばしい匂いのするそれは、薄暗いせいでハッキリとは見えないが、どうやらパンの入った紙袋のようだ。
思わず目をパチクリさせ、たった今この紙袋を投げつけてきた人物に目を向ける。
「どこ行ってたのよ!探したんだから!」
プリプリと怒ったルーが肩を怒らせて近付いてくるのが見えた。
・・・ごめん。
いつもなら真っ先に出る台詞だった。
が、今日は何故か言いたくなかった。
長い事、叫びながら走ったせいで、声が出なかったのかもしれない。
無事だった姿を見て、力が抜けたのかもしれない。
いや、違う。
「・・・・・なによ」
だってさ・・・。
「・・・・・なんで何も言わないの?」
必死になってここまで走ってきたのに・・・。
「・・・ねえ・・・・・・」
さすがに、それはないんじゃない・・・?
「・・・・・シロ?」
僕は・・・。
「シロ!」
僕は。
「・・・シロ・・・ちゃん?」
怒ってるんだ・・・!
ぷいっと回れ右をして、僕は何も言わずに歩きだした。
少しは反省すればいい。
宿屋に着くまで、喋ってやらないんだから。
ズキズキとする胸の痛みを感じつつも、そんな事を思いながら振り返りもせず歩く。
しかし次の瞬間、そんな想いもすぐに打ち砕けてしまう事になる。
「うわぁぁーーーん!ごめんなさぁーーーい!」
林に突然、ルーの泣き声が響き渡った。
ギョッとして振り返ると、ルーは地べたに座り込んで泣きじゃくっていた・・・。
「ルー・・・」
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!」
「わ、わかったよ」
「ごめん・・・ごめんね・・・」
「わかったから・・・」
小さく謝罪の言葉を何度も口にするルーの側へとそっと近付いて行く。
近付く僕の気配に気付いたのか、ルーは涙でいっぱいの顔をあげた。
「ごめんね、シロ・・・」
「うん・・・もういいから・・・」
「投げつけたりして、ごめんね・・・!」
「・・・へ?」
「・・・パンといえども、痛かったよね・・・!?」
「・・・・・・・・」
・・・えーーーーーー!?
ルーが謝ってるのって・・・ソコ!?
思わず目を見開いたまま黙っていると、またも「ごめんね、ごめんね・・・」と泣きはじめてしまった。
『シロ・・・おめぇさ、もちっと心を鬼にした方がいいと思うぜ?』
今になって、何故かあの人の言葉を思い出してしまった。
・・・でも。
トラップあんちゃん、ごめん。
僕はやっぱり、鬼にはなれないや・・・
クスリ、と自嘲気味に小さく笑って。
そっとルーの頬に両手を当てる。
「・・・・・・シロ・・・?」
「・・・僕の方こそ、今までルーをほっといたまま、歩きまわっててごめん」
言い終えると、ルーの綺麗なサファイアブルーの瞳が一瞬開かれた。
そしてすぐに、目を細めると、
「うん、これでおあいこだね」
と、ニッコリとほほ笑むのであった。
END
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まっじですみません!!!な仕上がり(笑)
というのも、↓描いてて思いつきまして(しかも描き途中に;)。
眠いけど、これ逃したら一生書けない気がして、一時間ぐらいで無理やり切り上げたSSなので・・・
ちぐはぐ部分沢山あると思いますっ!
えーんごめんなさーーーい!(逃げ!)